報告書等

特別研究顧問 鈴木篤之・川上博人の活動


 株式会社NV研究所特別研究顧問の鈴木篤之(東京大学名誉教授)、川上博人(元原子力安全基盤機構)等の活動を掲載しています。

低線量域長期被ばくのがんリスクの統計的評価手法の再考について 川上博人

 このメモは、昨今の原子力におけるリスクガバナンスの失敗について改めて考えさせられ、原子力安全文化再構築のために、リスクガバナンスの在り方とこの科学的リスクの原点について、若い技術者に見直しを呼び掛けるものである。

 リスクガバナンスにおいては、科学的リスクと不安の2種類のリスクを対象にしているが、これらは決して別箇に存在するものではない。種々のステークホルダの不安は、科学的リスクとその不確かさを出発点とし、それぞれが置かれた状況に応じて幾多の連鎖でステークホルダ独自のリスクが発生する。従って、最終的にはリスクコミニュケーションに基づいてステークホルダ個別のリスク管理が求められるが、原点は科学的リスクである。このリスク、特にその不確かさが大きければ大きいほど、個別のステークホルダの不安も広がるのであり、科学的リスクの確度を高め、その不確かさの幅を縮めて行かなければ、不安の解消には決して結び付かない。
 科学的リスクにおける被ばく線量と致死率の換算には、国際放射線防護委員会(ICRP)の閾値なしの線形モデル(LNT)が、これを否定するだけの十分な科学的知見がないという理由だけで、保守性の観点から国際的に広く用いられてきたが、福島事故以降多くの研究者からLNTの再考が叫ばれている。リスクガバナンスの出発点は低線量域におけるがんリスクの線量依存性の解明で、LNTと低線量域では影響無しには、リスクガバナンスにおいて計り知れぬ差異がある。
 世界的には英国、仏国、米国及び日本だけで、既に放射線業務従事者の1,100万人年を超えるコホート調査研究のデータが蓄積されているが、このままこのような調査を継続しても、LNTに関して新たな知見が得られるとは思えない。

 筆者はLNT再考を促す立場から、これまで公開されているコホート調査研究の成果をレビューし、これまで用いられている統計的手法では、累積線量のように年齢と強い相関関係があるような場合には、年齢の影響を明確に区分できず、正しい解が得られないことを明らかにし、これに対処する試案を検討してきた。リンク先に提示の添付資料はこの「低線量域長期被ばくの発がんリスクの統計的評価手法の再考について」をまとめたもので、更に、若い研究者が自分自身で確かめるための参考に、本資料のための検討資料も併せて公開している。結論に影響するような間違いもあるかも知れないが、少しでも参考になればとの思いである。

 科学的に正しいリスク認識がリスクガバナンスの原点であることを強く認識して、関係機関にはコホート調査データの公開を求めるとともに、原子力に係る研究者は他の分野の専門家と協力して、まずはこの解明に全力を挙げることを期待したい。

リンク先
○NV研究所のブログ
https://sites.google.com/site/nvresearchinst/
(「研究活動報告」→「川上博人特別研究顧問」のページをご覧ください)


「核燃料サイクルを考える」 鈴木篤之
 鈴木篤之が2017年9月19日に原子力システム懇話会で行った講演資料を掲載いたします。

「核燃料サイクルを考える」


「福島第一事故の教訓への取り組み」 鈴木篤之
 Risk Analysis誌に掲載された鈴木篤之の論文の日本語訳を掲載いたします。

「福島第一事故の教訓への取り組み」
(Suzuki A. Managing the Fukushima Challenge. Risk Analysis, vol.34, No.7, 2014: 1240-1256)


NPO法人知的人材ネットワークあいんしゅたいん勉強会資料 川上博人(2016年8月17日開催)
 NPO法人知的人材ネットワークあいんしゅたいんが、科学技術振興財団(JST)の受託事業として今年度実施している「市民と科学者の放射線コミュニケーションネットワーク」の勉強会 (2016年8月17日)にて、川上博人が講演を行いました。

配布資料①
配布資料②

【議事概要】
 勉強会には、ウェブで公開して募集した約20名が参加されました。
 大学の疫学調査の専門家を含め、累積線量と年齢に相関関係がある場合には、従来の統計的処理では、線量の影響は年齢の影響の影に隠れて正確に評価できないことを確認しました。
 主催者で、NPOあいんしゅたいん理事長の坂東昌子氏は、「更に検討を進めるためには、広島・長崎のデータ、放影協の原子力放射線業務従事者のデータ、非被ばくのがん情報サービスのデータを比較することが重要で、まずは、放影協の疫学調査の情報開示を求めていく必要がある」と強調していました。


書籍出版のご案内「核燃料サイクル工学・バックエンドの科学-その研究教育の在り方-」


 2016年6月25日(土)に開催されたシンポジウム「核燃料サイクル・バックエンドの科学-その研究教育の在り方-」の講演内容をまとめた書籍が出版されました。

書籍情報:
「核燃料サイクル工学・バックエンドの科学-その研究教育の在り方-」(デザインエッグ社)
ISBN-10:4865439625
ISBN-13:978-4865439625
発売日:2017年3月31日

編者:
安 俊弘(カリフォルニア大学バークレー校)
鈴木 篤之(東京大学)
長谷川 秀一(東京大学)
神崎 典子(NV研究所)
詳細のご確認・ご購入を希望される方は、amazonのページをご覧ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865439625




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